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理研、笹井先生の死について


私が子供の頃、私の母は東京郊外の国立M病院に看護婦として勤めていました。


このM病院は、当時から特に整形外科が有名で「世界の斉藤」と言われる名医がおられました。


よって日本中からこの先生の診察や手術を受けに患者さんが来ることや、夏休みの頃になると、その休みを利用して側湾症治療の為にやはり日本中から子供達が大勢やって来るという話しも聞きました。


また母の同僚の看護婦さんのお母さんがヘルニアか何かで車椅子生活をしているというのを聞いた斉藤先生が「一度診てやるから田舎から連れてきなよ」の一言で地元の医者には「治らない」と言われた者を見事に手術し治し、帰りは自分で歩いて帰ったなんていう話しもよく聞きました。


一時、母はその整形外科の手術場勤務となったことありました。
手術場勤務となりますと夜勤が無くなりますので夕食を一緒に取ることが増えました。


その時の親子の会話に「手術の話し」よくあがったものでした。


母親は、何事も無かったように「今日の手術は・・・」と始めるのです。
私は「それはどんな人なの?」「何故そんな病気になったの?」「結局上手く行ったの?」「その後どうなるの?」といったことを毎度毎度質問していた記憶があります。


そして、その当時の手術の殆どが「頸椎損傷」、「脊髄損傷」と言われる患者さんのものだった記憶があります。
「手術は世界の斉藤先生がやったの?」
「そうよ」
「手術は上手くいったの?」
「上手くいったわよ」
「それでその人は治るの?」
「手術は上手くいったけれど、これからは車椅子の生活になってしまうわ」
「えっ!?上手くいったのに?何故?車椅子なの?一生?」
「頸椎や脊髄には神経が通っていて、その神経が一度傷ついたり、切れたりしてしまうともう元に戻らないの」
「体の傷は元に戻るのに、神経はダメなの?」
「そうなのよ」

といった会話をもう何度したでしょうか。

後になって分かったことですが、母親は私を医者にしたかったらしく、当時から手術の度にその内容を(頼んでもいないのに)よく話していました。


しかし、毎回の夕食の席で聞く殆どの手術の結果は、
私なりの理解で言えば「世界の斉藤先生が手術をしても完全には治らない」という結末で終わるのでした。
私はその度に、がっかりしたものでした。
なんとも言えない気持ちになりました。


しかし、同時に母親はこうも言っていました。

「でも諦めることはないの。確かに今の医学では斉藤先生でもそこまでの治療。でも医学の進歩は日進月歩なの。どんどん進んでいるの。毎日世界のどこかで新しい薬や技術が発明、発見されているの。だから5年後、10年後には現在では治らない病気でも治るようになる可能性があるのよ」と。


昨日、お亡くなりなられた笹井先生のことを私はよく知りません。

しかし、笹井芳樹先生は日本の「再生医療」における「エース」だったと今朝の新聞では報じられています。

皆さん、再生医療のエースですよ。
こんな人を簡単に死なせていいのでしょうか。
私はそうは思いません。
こういう人を自死なんかで死なせてはいけないのです。
誰でも死ぬことは恐ろしいこと怖いことの極致なはずです。
それでも自死しようということはもう笹井先生は精神的に追いつめられ、いわゆるノイローゼや鬱状態だったのでしょう。

全国で何万人、何十万人という患者さんやお医者さん、看護師さんが笹井先生の研究成果に大きな期待をもっていたのではないでしょうか!
笹井先生は実の多くの患者さんの人生に極めて劇的な影響を与えることができる本当の「研究者」の中の「研究者」だったのではないでしょうか。


神経細胞の再生も「マウスのレベルでは既に再生に成功している」という事実があるようです。
つまり、マウスによる実験段階では、下半身不随のマウスの神経細胞を再生し移植し、再び動き回れる段階まで来ているのです。
私は、以前このニュースをテレビ見て驚きました。
「もうここまで来ているのか!もう少しではないか!!」と。
多くの患者さんも同じ思いをもったのではないでしょうか。


後は、この再生した細胞を人に移植した時に「癌化」することを抑えることさえできれば(『ここが難しい』と山中教授も以前テレビでおしゃっていましたが)人に対してこの治療を施すことができるのです。


この治療が実現できたならば、頸椎や脊髄の損傷等で寝たきりや車椅子生活をしてきた方々が再び自らの足で立って歩くこともできるのでしょう。(勿論、再生医療の研究はは神経細胞の再生だけでなく、他の多くの難病の患者さんの為にもなされていることは私も存じています)


笹井先生含め多くの研究者のお陰でここまで来たのです。


本当に惜しい人を亡くしてしまいました。私は非常に残念です。


笹井先生のご冥福をお祈りしたいと思います。


今後は、笹井先生の遺志を継いだ研究者の方々によって、笹井先生が目指した再生医療を引き継いで完成させて頂けると。


ちなみに上記の国立M病院は世界の斉藤(先生)の弟子(や孫弟子)の先生達が(母の言葉を借りれば)バッタバッタと手術しているそうです。
勿論、国立病院の統廃合も免れ、今でも整形外科では日本屈指の病院のようです。



長谷川不動産経済社