Japan Far East Real Estate

Hasegawa Real Estate and Economy, Inc.

時代を超えたストックビジネスの優位性


かつて長野県の諏訪に行った時のことです。ガイドブックで諏訪湖の湖畔に公衆浴場を偶然見つけました。旅の疲れを癒そうと訪ねてみました。
場所は、諏訪湖の周遊道路沿いに建つ温泉旅館であれば一等地と思われる場所に位置し、実際、その公衆浴場の周りには、高級温泉旅館が集まっていました。駐車場に車を停めてその公衆浴場に近づいて驚いたのですが、外観は洋館風で非常に立派な歴史のある建築物に見えました。


中に入ってみるとこれまた驚きの建築様式であり、まさにローマかどこかの浴場を真似て作ったような風情でした。公衆浴場にしてはあまりにも立派であり見るからに歴史を感じるこの建築物をどこの誰が作ったのかと。


その建物に付いていたプレートをよく見てみると「片倉組」とありました。
かつてこの会社が自社の工場で働く従業員向けに作ったものだということでした。


その時は、片倉組と聞いても全くピンと来ず、信州の地場の建設会社が建てたのだろうという程度の認識しかありませんでした。
後々知ったのですが、この片倉組こそ現在一部上場企業である片倉工業株式会社であり、1920年大正9年)設立の名門かつ老舗企業だったのです。


この公衆浴場は、片倉組の創業者一族が出資し、周辺の方々への公共的な更生施設としてなんと昭和3年に建設したものだったのです。
当時の片倉組は繊維産業を営んでいたようですが、如何に隆盛を極めていたかということを今に知ることができる歴史的な建造物です。
現在、この建物は重要文化財の指定まで受けています。


さて、現在の片倉工業がどういう企業かというと、もともと信州で創業し、現在では世界遺産にもなった富岡製糸工場をはじめとして、各地に工場を所有し一大企業へと成長しました。


現在では、その跡地を利用し、ショッピングセンターの運営を中心とした、さまざまな「不動産賃貸事業」を行う会社に変化しているのです。


今でも繊維事業や新規事業としての医薬品事業等も行っていますが、現在の片倉工業の柱は間違い無く「賃貸事業」です。
 

かつて繊維産業は日本の基幹産業であり、その後は、繊維産業から、鉄鋼業、造船業と時代に基幹産業も変わっていきました。


その結果、東レ帝人といった大企業は、時代に合わせて業態を変化させてきましたが、現実的には、多くの繊維を扱う企業の多くは淘汰されていったのです。


この片倉工業も、富岡製糸工場の払い下げを受けたことにも明らかであるように、かつては国の経済を担う繊維産業の主要企業であったのです。
しかし、時代の流れと共に、現在は不動産賃貸事業を主な事業としているのです。  
この片倉工業以外にも、例えば太平洋戦争の頃、軍用機やその部品を製造していた立飛企業(現立飛ホールディングス)や昭和飛行機工業といった軍事産業を担っていた企業も、現在の主要な事業は不動産賃貸業に変化しています。


弊社の顧問先の企業にも、元は中堅クラスの自動車の部品工場であった会社や、特殊な特許を持つ建設会社が、現在では不動産賃貸業を行っているといったケースが数多くございます。


一つ確かなことは、かつては国の経済を担うような企業であったとしても、その寿命は我々が思うほど長くはないということをこれまでの歴史が証明しています。
いわんや、中小零細企業や、個人ベースで事業をやっている方々にとってのその事業またはビジネスの栄枯盛衰のサイクルを考えた時、それに時代の変化に対する「対応」は極めて難しいものであると言えます。


例えば繊維産業であるならば、先に述べた東レ帝人のように自ら大きく変化することで未だに大企業として地位を保っていること自体が極めて少ない事例なのです。

こういった特殊な事例は、ある意味奇跡に近いと私は思うのです。
近年の事例としては、デジタルカメラが普及した後の富士フィルムがこれに当たるのではないでしょうか。しかしこれも例外中の例外と言ってよい特殊なケースだと思います。
 

今現在どんなに隆盛を極めているビジネスであっても、10年後、20年後、周りの環境の状況がどうなっているか正直わからないというのが今の経営者の本音ではないでしょうか。

なぜならば世の中の動きや経済の変化は、数十年前に比べても明らかに加速しています。

我々は、結局どんなビジネスに携わっていようと、会社を経営していようと、雇われていようと、規模の大小にも関わらず、今後も数十年に渡って同じ業態でビジネスを持続していくことは極めて困難なことだと感じます。

それ故、生き残りの方法の一つは常に変化していくことでしょう。
もう一つは確実なキャッシュフローを生むストックビジネスを構築していくことではないかと思うのです。


長谷川不動産経済社